映画「グリーンブック」※ネタバレあり
差別の時代に挑んだ、黒人ピアニストとイタリア系用心棒の演奏ツアー
あらすじ
時は1962年、ニューヨークの一流ナイトクラブ、コパカバーナで用心棒を務めるトニー・リップは、ガサツで無学だが、腕っぷしとハッタリで家族や周囲に頼りにされていた。ある日、トニーは、黒人ピアニストの運転手としてスカウトされる。彼の名前はドクター・シャーリー、カーネギーホールを住処とし、ホワイトハウスでも演奏したほどの天才は、なぜか差別の色濃い南部での演奏ツアーを目論んでいた。二人は、〈黒人用旅行ガイド=グリーンブック〉を頼りに、出発するのだが─。
感想
★★★★☆
いい話たっだ。王道のヒューマンドラマ。実話をもとにしているからこそ心に沁みるものがあった。他の人種差別を取り上げた作品と異なるところも多々あり、それがこの物語の深みであり、語りたくなるところではないでしょうか。
次はフライドチキンを片手に観たいですね、はい。
トニーとシャーリーの友情物語
この物語は、ずばりふたりの友情の軌跡でしょう。合いまみえることのないはずのふたりが出会い、ぶつかり、そして絆が生まれる、王道ちゃ王道なんですが、そこに差別の問題や個々にある孤独、すくっと笑っちゃう演出など様々なスパイスが散りばめられていて面白いんですわ。
そもそもトニーは始め、黒人に差別意識があった。それを象徴するのが、自宅にきた黒人の清掃員たちが飲んだコップをこっそりゴミ箱に捨てるシーン。それに気づいた妻はちゃんとゴミ箱から拾い上げます。(妻がまた素敵な女性なんですわ)
なので、どんなに報酬が良くてもシャーリーの用心棒という仕事をはじめは嫌がっていたトニー。結局は、用心棒の素質を買われ、トニーの条件を飲んでシャーリーが雇ったわけですが。始めこそ、車内は不穏な空気が流れていたものの、シャーリーの天才的な演奏を聴いてから、トニーのシャーリーに対する気持ちに変化がみえ、それからはお互いの波長が合っていきます。フライドチキンやトニーが奥さんに書く手紙の件はチャーミング。
差別の実情と気持ちの変化
そんな穏やかなシーンの中に、黒人差別の現実がふっと描かれている。それを受け入れている人たちが残酷に見えますが、これが当時の日常であり、またそれを思うといたたまれない気持ちになります。なんでこんなにも不条理な世の中なのかと、この手の話はいつも悶々とします。
そしてシャーリーと一緒にいることで、目の当たりにするトニーの心情は徐々に変化していくのです。
シャーリーのだれも知りえない孤独
「黒人でもなく、白人でもなく、どう生きるのが正解か」
黒人差別が色濃く残る時代に、シャーリーは非常にまれなケースで、地位も富もあり教養も持っている。しかしほかの黒人たちとの交流はない。同じ黒人同士でも、シャーリーの着ている服や身に着けている装飾品、醸し出す雰囲気から、同種ではないと思われてしまう。無論白人からは、黒人であれば同じ人種ではないと思われている。そしたら自分はなんなのか。この状況が彼の孤独であり、(またセクシャルマイノリティもあり)誰にもわかりえないつらさである。その想いをトニーにぶつけるシーンでは、その人知れず抱えている深い孤独に気づかさせるのです。
ふたりをみればわかりますが、結局は生まれがどこであれ、肌の色が違っても関係ないってこと。トニーもイタリア系というところから白人でありながらも少なからず差別を受けているところから、この二人には似ても似つかないところでどこか似た境遇を抱えているというところにもハッとさせられます。だからこそ共鳴したふたりなのかなとも思いました。
やっぱり、音楽っていいな
ツアー終了後に、立ち寄ったバーでの演奏シーンは最高によかった。はじめましての黒人の人たちとセッションし、心が通じ合う感じ。なによりシャーリーが楽しそうに演奏しているのが印象的。
後日談。トニー役の俳優がまさかのアラゴルン役(ロードオブザリング)だったとは鑑賞中は知る由もなかったのである。それが一番の衝撃であったのは間違いない…